目次
- 1 再び盛り上がるWeb3ゲーム市場、だが…
- 2 多くのBCGが早期に衰退する現実
- 3 持続可能性を欠いたエコシステム設計
- 4 典型的な問題プレイヤー像とその影響
- 5 エコシステム再設計に必要な視点
- 6 ロードマップからの逸脱:なぜBCGは方向性を見失うのか?
- 7 成功するBCGは何が違うのか?
- 8 類似ジャンルの比較:なぜ生き残るプロジェクトがあるのか?
- 9 投機の先にある“遊ぶWeb3”の可能性を問う
再び盛り上がるWeb3ゲーム市場、だが…
近年、再び「Web3ゲーム」や「Play to Earn(P2E)」という言葉が注目を集めている。ユーザーはゲームをプレイすることで暗号資産(トークン)を獲得でき、それを実際の収益に換えることができる──そんな夢のような仕組みが話題を呼び、多くの新規タイトルが登場している。
しかし、プレイヤーの中には「面白そうだからプレイしたい」という純粋な動機よりも、「どれだけ早く回収し、いかに利益を得るか」に意識を集中させる層も少なくない。これはWeb3ならではの性質であると同時に、諸刃の剣でもある。
多くのBCGが早期に衰退する現実
どんなに話題になったブロックチェーンゲームも、その多くが数ヶ月以内にプレイヤー数を大きく減らしてしまう。リリース初期は盛り上がるものの、次第にトークンの価値が下がり、「稼げる」どころか、プレイするモチベーションそのものが消えてしまう。
特にP2Eを売りにしたタイトルほど、投資回収の期待が裏切られた途端に、コミュニティの活気が急速にしぼんでいく。
持続可能性を欠いたエコシステム設計
このような早期の衰退には共通した原因がある。それは「エコシステム設計の甘さ」だ。
多くのBCGは、プレイヤーにトークンを報酬として配布する設計になっているが、そのトークンがどのように消費され、循環するかが十分に設計されていない。新規ユーザーの課金や初期投資に依存した状態で経済が回っており、ユーザーが増えなくなるとトークン価格が下落し、プレイヤーの離脱を加速させる悪循環に陥る。
また、ゲームとしての面白さや中長期的な継続性よりも、初期投資回収のスピードばかりが意識されているため、持続可能なコミュニティ形成が難しい。
典型的な問題プレイヤー像とその影響
こうした不安定なエコシステムに対して、大量の複数アカウント(複垢)やリセマラ、ボット運用などを行う“収奪系プレイヤー”が現れる。
英語圏では彼らを”farmers”(農夫)、あるいは”extractors”(搾取者)と呼ぶこともある。彼らは低コストで大量のアカウントを運用し、効率的に報酬トークンを抜き取ることで、大きな利益を得る。
このようなプレイヤーが一時的にトークン供給量を爆発的に増やすことで、価格下落が加速し、結果として一般プレイヤーのモチベーション低下と、ゲーム経済の崩壊を招く。
エコシステム再設計に必要な視点
このような事態を避けるためには、次のような視点が求められる。
- トークンがただの「配布物」にならず、ゲーム内での価値・活用方法が明確であること
- NFTやアセットの保有が、単なる利益の源泉ではなく、ゲームプレイの体験向上につながること
- 短期的な投資回収モデルではなく、中長期でのエンゲージメントを支えるUX設計
- 不正対策(複垢・Bot検知)とコミュニティベースのエコシステムの構築
ブロックチェーンゲームも、結局のところ「ゲーム」である。楽しさが中心に据えられなければ、長続きしない。
ロードマップからの逸脱:なぜBCGは方向性を見失うのか?
多くのBCGプロジェクトが衰退する理由の一つに、「当初のロードマップからの逸脱」が挙げられる。初期段階で掲げていた理想的な成長戦略やコンテンツ追加計画が、リリース後には実行されない、あるいは大幅に変更されてしまうケースが珍しくない。その背景には、以下のような要因が潜んでいる。
ユーザーフィードバックへの過剰対応
初期フェーズでは、不具合やUI/UXへの指摘が大量に寄せられがちだ。開発リソースがそれらの対応に追われることで、新しいコンテンツの開発や本来予定されていたエコシステムの拡張が後回しになるリスクがある。
想定外のユーザー流入不足
「最初に想定していたよりもユーザー数が伸びない」ことは、トークン経済にも影響する。マルチチェーン対応や他タイトルとの連携など“拡大施策”に手を出すことで、リソースの分散や方向性のブレが発生しやすくなる。
トークン供給量のコントロール不全
報酬型エコシステムの設計が甘い場合、初期プレイヤーによる過剰な稼ぎが発生し、結果的に供給過多・価格下落を引き起こすケースがある。
このような状況に陥ると、運営側は対策として、
・既存コンテンツでのトークン獲得量の制限
・報酬プールの縮小
などの”引き締め”調整を行うことが多いが、その分新コンテンツの開発や改善が後回しになるという弊害もみられる。
さらに問題となるのが、出金制限によるリスクである。
一部の運営は、獲得量そのものは変えずに「出金できない仕様」を導入することで、価格暴落を回避しようとするケースがある。しかしこれは、資産が実質“幽閉”される状態を生み、ユーザーの信頼を大きく損なう可能性がある。
**「稼げるけど引き出せない」**という状況は、数字上の資産があっても実際には無価値であることを意味し、最終的にはプレイヤー離れやプロジェクトの失速に繋がりかねない。
成功するBCGは何が違うのか?
一方で、現在も一定のユーザーを維持し、継続的に成長しているBCGも存在する。では、それらは何が違うのだろうか?いくつかの成功パターンが見えてくる。
エコシステム設計が現実的かつ強固
報酬のバランス設計に優れ、初期ユーザーだけが得をするような構造を避けているタイトルは長生きする。具体的には、トークン排出の仕組みとバーン(焼却)メカニズムがしっかり計算されているゲームだ。
ゲームとしての純粋な面白さ
BCGであっても、「ゲーム」として成立しているものは強い。トークン報酬が仮になくなってもユーザーが残る、そんな設計を意識しているかどうかは大きな分かれ目になる。
開発力とコンテンツ供給速度
次々と新しい要素が追加され、飽きさせないゲーム展開を行っているタイトルは、それだけでユーザー維持に貢献する。
マーケティングの巧妙さ
強力なIPと組んだり、SNSやインフルエンサーをうまく活用したマーケティングを行っているタイトルは、仮にエコシステムに欠点があってもユーザー数を維持できるケースがある。
初心者ユーザーが“良いBCG”を見極めるには?
Web3やブロックチェーンゲーム(BCG)に不慣れなユーザーにとって、「信頼できるタイトルかどうか」を見極めるのは決して簡単ではない。とはいえ、いくつかの視点を持っておくことで、リスクを最小限に抑えた上で楽しむことができる。
開発・運営体制に関するチェックポイント
開発チームの実績や透明性があるか
開発元がどのような会社なのか、メンバーの経歴や過去作が確認できると安心だ。
過去にBCG作品を手掛けていれば、それもチェック
過去作が継続して運営されているか、プレイヤーからの信頼を得ているかも重要な判断材料。
パートナー企業の信頼性
提携先が実在する企業か、有名プロジェクトと関係があるかも確認しておこう。
プロジェクト設計の透明性と実用性
ホワイトペーパーやトークノミクスが公開されているか
どんな仕組みでプロジェクトが運営されているか、誰が利益を得るのかが明記されていると信頼度が上がる。
トークンの用途・循環モデルに実用性があるか
単なる「配布イベント」ではなく、ゲーム内での役割や消費設計がなされているか確認しよう。
情報との付き合い方
インフルエンサーの紹介を鵜呑みにしない
案件や報酬目当ての発信もあるため、複数の情報源を比較する姿勢が大切。
一部の「爆益報告」に踊らされない
成功例だけが表に出がちだが、それはごく一部。地に足のついた情報で判断を。
SNSやコミュニティの熱量を観察する
盛り上がりが自然かどうか、インセンティブ目的で水増しされていないかを見極めよう。
公式SNSのフォロワー数や拡散数は“虚構”の可能性もある
数字だけで判断せず、投稿内容やユーザーとのやり取りの質をチェックしよう。
ゲームとしての完成度
「トークン報酬がなくても遊べそう」と思えるか?
ゲーム性がしっかりしていれば、長く遊べる土台になる。
リリース前のプロモーションだけで判断しない
宣伝が上手でも、実際のゲームが未完成・不安定というケースは少なくない。
リリース後の開発スピードや運営の発信頻度を確認する
バグ対応やアップデート、ユーザー対応の早さも、長く続くタイトルかどうかの重要な判断軸。
BCGは投機性もあるジャンルだが、**「稼げるかどうか」より、「継続して改善されているか」「きちんと運営されているか」**を見ることの方が、長期的には重要だ。
リリース直後の熱気に乗せられず、「数週間遊んでみて、継続意志が持てるか」を見極めてから課金・投資をするというスタンスが、初心者にとっては最も安全と言えるだろう。
類似ジャンルの比較:なぜ生き残るプロジェクトがあるのか?
代表的な例として、「Move to Earn」ジャンルを見てみよう。
このカテゴリの火付け役となったのは《STEPN》だが、以降も類似コンセプトのプロジェクトは多数登場している。その中でもSTEPNがある程度の地位を維持できているのは、以下のような理由が考えられる。
- いち早くユーザーコミュニティを築いた
- パートナーシップ戦略やプロモーションが成功
- 初期ユーザーのロイヤルティが高かった
- トークン価格を支える施策(バーンイベントや新チェーン展開)を継続
逆に短命に終わった類似プロジェクトは、「コンセプトは面白いが中身が薄い」「運営が不透明」「収益性が下がった段階で何の施策も打たなかった」など、改善の余地を放置したケースが多い。
開発側は何を優先して取り組むべきか?
エコシステムの設計・トークンの価格維持・ゲームの面白さ・プロモーション──やるべきことは多いが、最も優先すべきは「プレイヤーの継続率を高める要素」に集中することだ。
例えば以下のような取り組みがカギとなる。
- ゲームとしてのコア体験の磨き込み(「遊ぶだけでも面白い」を実現)
- トークンのユースケースと循環性の確保(インフレしない報酬設計)
- 過剰な“初期バラ撒き”ではなく、中長期の成長に資するインセンティブ設計
- 成長に応じたコミュニティ運営と透明な情報発信
特に初期段階で「どう稼ぐか」ばかりに焦点を当ててしまうと、エコシステムの持続性が失われやすい。
投機の先にある“遊ぶWeb3”の可能性を問う
「トークンで稼げる!」という言葉に惹かれて多くのユーザーがWeb3ゲームに参入し、同時にそれが飽和したときには一気に離脱する──このサイクルを繰り返す限り、ブロックチェーンゲームの未来は暗い。
だが一方で、「あ、これなら普通にゲームとして面白いかも」と思わせるタイトルも、少しずつだが確実に増えている。報酬を目的としないプレイヤーが定着し、ファンコミュニティが自然に育っていくようなプロジェクトだ。
本来、ブロックチェーンやトークンは“報酬の手段”であるべきで、“目的そのもの”ではない。
投機で集客したプレイヤーがすぐ離脱するような構造から脱却し、遊びを主体とした設計が広まっていくことで、Web3はようやく「次のステージ」へ進めるのではないか──そう思える兆しが、確かに出始めている。
“日本的プロモーション”はWeb3に通用するか?
日本発BCGの一部では、従来のソシャゲと同様に「事前登録でAmazonギフト券プレゼント!」といったキャンペーンが多用される。しかしこれは、果たしてWeb3ゲームにおいて有効なのだろうか?
たしかに一時的な話題づくりやフォロワー獲得には役立つ。だが、Web3ゲームは一般的なソーシャルゲームとは異なり、初期体験にある程度のリテラシーを要する。
ウォレット接続、仮想通貨の送受信、NFTの扱い──これらに触れたことのない層に対し、ただの「抽選目当て」で入ってもらっても、高確率で離脱する。下手をすれば、レビューやSNSでの評価にネガティブな影響すら与える可能性もある。
BCGでは、プロモーション施策も「いかにゲーム体験と紐づいているか」が重要だ。
例えば:
- 事前登録でもらえるNFTが、ゲーム序盤の攻略に役立つ
- SNSキャンペーンの報酬が、オンチェーンで配布され、ウォレットやガス代の仕組みを理解する導線になる
- AMA(開発者とのQ&Aイベント)やプレイ動画投稿キャンペーンなど、ファン化・理解促進を目的とした企画
このように、単なる金銭的インセンティブではなく、「遊びながら学べる」設計がされているかどうかが、Web3時代のプロモーションにおける成否を分けるだろう。
“投機”を越えたその先に、なにがあるのか?
仮想通貨やNFTに触れる入り口としてのBCGは、今後も一定の需要がある。だが、継続性を持つBCGに共通しているのは、「プレイしていて楽しい」「世界観に愛着が湧く」「自分の成果が残る」という“ゲーム体験”の強さだ。
Web3は、もはや目新しいだけの技術ではなく、ゲームに“プレイヤー主導の経済や所有”という文脈を加える存在になりつつある。
ただし、それを成立させるには、「遊び」と「稼ぎ」のバランスを正しく設計すること、そして無理なく新規プレイヤーを迎え入れるための工夫が必要だ。
私たちは今、Web3ゲームの第二波に差し掛かっている。
そこにあるのは、単なる一攫千金のチャンスではなく、プレイヤーが“投機者”から“参加者”へと変わっていく過程だ。